9月4日付長崎新聞記事「地域猫 繁殖制限を」について
2013年9月4日付長崎新聞に「地域猫 繁殖制限を|〝無用な殺生〟減へ」と題する記事が掲載されています(長崎新聞ウェブ版の記事はこちら、ウェブ魚拓はこちら)。この記事は、基本的には市民の動物愛護意識の向上を図る目的で書かれたものと思われますが、肝腎のタイトルにも含まれる「地域猫」という概念について、誤った理解をしているために、記事本来の目的とは真逆の結果をもたらしかねない内容となっています。
ノラねこをめぐる地域環境の改善を図ろうと実際に地域猫活動に取り組む市民の足を引っぱるだけでなく、動物愛護に関する市行政の方針に関する報道内容についても信頼できない結果となっているこの記事について、長崎県地域猫活動連絡協議会は、内容および表現の訂正を求めるとともに、「地域猫活動」に関する正しい内容を含む特集記事を近日中に別途掲載していただくことを、長崎新聞社に希望します。
2013年9月4日
長崎県地域猫活動連絡協議会
問題の記事は、9月20~26日の動物愛護週間を前に、山田貴己記者が長崎市動物管理センターに取材して書かれたものです。長崎市の収容犬・引取猫の現状が数字と写真をまじえて紹介されており、「殺処分」を減らさなくてはならないという問題意識を持って記事にされていることは評価できます。
ところが残念なことに、この記事を書かれた山田貴己記者が「地域猫」についてその内容を誤解しているため、その部分に関しては山田記者の問題意識に反して、「地域猫がよくないものである」という結論を導きかねない結果になっています。記事より引用します。
地域猫は不妊・去勢をしなければ繁殖する。また飼い猫も屋外で繁殖する機会は頻繁にある。安西所長によると、雄の去勢手術は1万5千円ほど、雌の不妊手術は2万円ほど掛かるという。飼い猫は飼い主の責任で繁殖制限すべきだが、地域猫は責任の所在が不明。このため市は、地域猫に関わる団体や個人に対し、繁殖制限の手術代の一部を助成する制度を検討中。手術後には何らかのマークを付け、判別できるようにして徐々に地域猫の繁殖制限を拡大、”無用な殺生”を減らす方針だ。
「地域猫は不妊・去勢をしなければ繁殖する」「飼い猫は飼い主の責任で繁殖制限すべきだが、地域猫は責任の所在が不明」というのは、「地域猫」の一般的な定義からは明らかに逸脱しています。
「飼い主のいないノラネコ」、つまり管理するひとのないノラネコを、地域ぐるみで「管理する」のが「地域猫」活動の趣旨です。ノラネコの個体把握を行ない、TNR(捕獲・不妊化・リリース)によって繁殖制限を施し、給餌給水を決まった時間にきちんと行ない、糞尿を始末して、一代限りのノラネコの生を最期まで見守るのが、地域猫活動です。
山田記者は、「地域猫」を「飼い主のいないノラネコ」と混同もしくは誤解していると考えられます。引用記事中前段の「地域猫」を「飼い主のいないノラネコ」と置き換えれば、文意は通ります。
飼い主のいないノラネコは不妊・去勢をしなければ繁殖する。また飼い猫も屋外で繁殖する機会は頻繁にある。安西所長によると、雄の去勢手術は1万5千円ほど、雌の不妊手術は2万円ほど掛かるという。飼い猫は飼い主の責任で繁殖制限すべきだが、飼い主のいないノラネコは責任の所在が不明。
誤解に基づくこの記事によって、読者は「地域猫は繁殖制限されていないもの、責任主体がはっきりしないもの」という誤った理解を与えられることになります。このことは、地域内の感情的な反対や無理解による批判にさらされながら、自分のお金を費やして不妊化を進め、少しでも「地域猫」に近づけようとする市民の活動に対して、決定的な悪影響をもたらします。本当は、「きちんと管理するための地域猫」であるにもかかわらず、「地域猫とはいいかげんなものだ」という理解をされてしまうわけですから。
さらに問題はこれだけに留まりません。上記引用の後段では、「このため市は、地域猫に関わる団体や個人に対し、繁殖制限の手術代の一部を助成する制度を検討中。手術後には何らかのマークを付け、判別できるようにして徐々に地域猫の繁殖制限を拡大、”無用な殺生”を減らす方針だ」と述べられていますが、山田記者の地域猫に関する理解が誤っている以上、市の今後の方針についてインタビューを受けた安西所長の当該コメントについては、残念ながら内容の信頼性が確保できないと考えられます。
長崎市が現在どのような助成制度を検討しようとしているか、当協議会では(期待はありますが)関知するものではありません。「正確な意味での地域猫の不妊化助成」が行なわれるのか、「飼い主のいないノラ猫への不妊化助成」が行なわれるのか、あるいはなにか別の助成制度が導入されるのか、もしくはまったくなにも検討されていないのかは、当協議会としてはなにもわかりません。正確な意味での地域猫の不妊化助成がなされれば、地域猫活動のお手伝いをしてきた当協議会としてはもちろん喜ばしいことですが、残念ながらこの記事の地域猫に関する部分については、その内容の信頼性はまったく担保されていません。
殺処分を減らしたい、そのためにいろいろな立場のひとたちがそれぞれできることをしたい。記者としてできることは、実態を知らせる記事を書くことだ、という気概で記事を書かれたのだろうと推測します。決して悪意があって、だれかの足を引っぱろうとして書かれた記事ではないことは、読めば理解できます。
ただ、そうであるがゆえにいっそう、今回のこの記事については残念でなりません。