動物愛護管理基本指針と地域ねこ活動

動物愛護管理基本指針と地域ねこ活動

 2020年6月1日の「動物の愛護及び管理に関する法律」(動愛法)の改正施行に合わせて、「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」(動物愛護管理基本指針)も改正されました(2020年4月30日環境省告示第53号)。基本指針は、動愛法の2005年改正に伴って2006年に策定され、その後2012年と2019年の法改正を反映させるかたちで、内容が更新されてきています。

 この基本指針は、動愛法が規定する内容を、実際の行政において具体的に実現していくために必要となることがらをまとめたものです。動物の愛護と管理を取り巻く現状と課題をリストアップし、これから講じていくべき施策をそれぞれに示していることから、行政のみならず、わたしたち市民が動物愛護について考え、行動していく際のガイドラインになるものだと言えるでしょう。

 今回の法改正・基本指針改正では、行政による所有者不明の犬猫の引取拒否や、マイクロチップの義務化、不適正飼養に対する行政の権限強化などに注目が集まっているようですが、地域ねこ活動にとっても見逃せない変更点が含まれていることに着目してみたいと思います。

2006年基本指針

 最初に基本指針が策定されたときには、「地域ねこ」という用語はまだなく、「所有者のいないねこ」の問題として次のように言及されていました。

 地域における環境の特性の相違を踏まえながら、集合住宅での家庭動物の飼養、都市部等での犬やねこの管理の方法、所有者のいないねこの適正管理の在り方等を検討し、動物の愛護と管理の両立を目指すことのできるガイドラインを作成すること。(2006年基本指針「第2 今後の施策展開の方向|2 施策別の取組|(3)動物による危害や迷惑問題の防止|②講ずべき施策 ア」)

 ここで挙げられた「ガイドライン」は、その後2010年2月に「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン(環境省)」としてまとめられます。そして、そのなかで「地域猫」に1章が割かれるかたちで、国の施策において初めて〈地域ねこ〉ということばが用いられることになりました。

2013年基本指針

 「地域ねこ」ということばが「講ずべき施策」のなかに明記されたのは、2013年改正の基本指針でした。上に挙げた2006年の項目に対応する部分は、2013年には次のように書き換えられます。

 住宅密集地等において飼い主のいない猫に不妊去勢手術を施して地域住民の十分な理解の下に管理する地域猫対策について、地域の実情を踏まえた計画づくり等への支援を含め、飼い主のいない猫を生み出さないための取組を推進し、猫の引取り数削減の推進を図ること。(2013年基本指針「第2 今後の施策展開の方向|2 施策別の取組|(3)動物による危害や迷惑問題の防止|②講ずべき施策 ア」)

 犬に比べて多い猫の行政引取数を減らすための切り札のひとつとして「地域猫対策」が挙げられることになりました。ここで、行政の果たすべき対応として挙げられているのは「計画づくり等への支援」になります。ともすれば対立しがちなねこをめぐる住民感情に配慮しつつ、「地域ねこ対策」がうまくいくように「支援」するというのが、2013年指針の方向性ということになるでしょう。

2020年基本方針とこれから

 これに対して、今回の2020年指針は、もっと積極的な行政の対応を推奨しているように思えます。まずは該当箇所の記述を確認してみます。

 住宅密集地等において地域住民の十分な理解の下に飼い主のいない猫への不妊去勢の徹底や給餌若しくは排せつ物の管理等を実施する地域猫活動の在り方に関し検討を加え、適切な情報発信を行うこと。(2020年基本指針「第2 今後の施策展開の方向|2 施策別の取組|(3)周辺の生活環境の保全と動物による危害の防止|②講ずべき施策 ア」)

 生活環境被害の防止や犬又は猫の適正飼養の観点から、所有者等のいない犬又は猫に対する後先を考えない無責任な餌やり行為が望ましくないことについての普及啓発の強化や、地域猫活動に対する理解の促進等を通じ、所有者等のいない子犬及び子猫の発生を防止するための取組を推進すること。(2020年基本指針「第2 今後の施策展開の方向|2 施策別の取組|(3)周辺の生活環境の保全と動物による危害の防止|②講ずべき施策 イ」)

 行政が取り組むべき第1点は、「地域猫活動」のあるべき姿を見定めて「適切な情報発信を行なうこと」にまで踏み込んでいます。そして第2点として、「無責任な餌やり行為」の抑制と、「(それとは異なるものとしての)地域猫活動に対する理解の促進」を図ることも、行政の役割として挙げられることとなりました。

 行政に対して地域ねこ活動への後押しが求められるようになって、10年以上が経過しています。長崎県・長崎市も含め、行政が獣医師会等と連携して、地域ねこの不妊化に対して一定の助成を行なうことも珍しいものではなくなりました。それでもやはり、地域ねこ活動現場のお世話係さんへの風当たりはまだまだ強いと言わざるを得ません。「無責任な餌やり」と一緒くたにされることに対して、当事者であるお世話係さんができることは、忍耐強くコミュニケーションを重ね、理解を求めていくしかない。それに対して、行政が「情報発信」「両者を区別した上での理解の促進」を手がけるべきことが定められた、2020年指針の改正点が、地域のお世話係さんの心強い味方となってくれることを願ってやみません。

 わたしたちの支援活動も丸10年が経過しました。活動開始当初はまだ一部のボランティアやねこ好きさんにしか通じなかった「地域ねこ活動」は、2020年指針においては活動内容とともに明記され、その点ではすっかり市民権を得た観があります。ただそれも、しっかりと現場のねこたちを管理できている先行事例があってこその市民権ですので、今後も適切なサポートと情報発信に取り組んでいきたいと考えています。